2021.2.19 12:00

【ベテラン記者コラム(110)】森氏バッシング、初めて目前に 有無言わさぬ社会の雰囲気に疑問

【ベテラン記者コラム(110)】

森氏バッシング、初めて目前に 有無言わさぬ社会の雰囲気に疑問

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東京五輪・パラリンピック組織委員会の前会長、森喜朗氏(代表撮影)

東京五輪・パラリンピック組織委員会の前会長、森喜朗氏(代表撮影)【拡大】

 不用意な一言が国中、世界中からバッシングを浴び、追い詰められていく様を、初めて取材することになった。東京五輪・パラリンピック組織委員会の前会長、森喜朗氏(83)の不適切発言から起きた騒ぎだ。

 森氏は政治家時代から失言で何度もバッシングされていたが、政治部も社会部も経験したことのない私にとって、取材者として初の事態だった。

 問題となった日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会は同僚が取材し、私はもらったメモを読んだ。さすがに「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」などは不適切としか言いようがない。しかし発言全文を読むと、現在のスポーツ界が置かれた状況を憂慮してのスピーチだったと分かる。

 趣旨は「女性役員を増やすのは、抵抗もあって大変な作業だ。実力ある人で自然に増えるのが理想だが、JOCの山下泰裕会長は非常に頑張っている」ということだ。

 補助線が必要だろう。前提は日本スポーツ界が男性社会だという点。JOCや日本スポーツ協会には女性が会長を務める団体も所属するが、女性が役員の主体を務める団体はまれだ。選手として活躍した女性が引退後に指導的立場に就くことも男性より少なく、役員となりうる人材も少ない。

 これは日本社会の写し鏡で、スポーツ界だけに解決を求めるのは無理というものだ。文部科学省は女性役員の比率を40%に引き上げるよう求めるが、マイナー競技団体は経済基盤も脆弱(ぜいじゃく)で、役員はボランティア。「女性を増やせといっても候補がいない。外部から来てもらって数合わせをするしかない」とは、国際競技団体の経験もある女性の元JOC理事だ。

 競技外の見地からの意見も大事だが、「競技やその世界のことを全く知らず、“今さら”な質問をする人もいる」とは別の人から聞いた。そうなると男女関係なく会議が長くなるのは当然だ。

 もちろん、そこで「女性が~」と話した森氏の発言は返す返すも不適切だ。とはいえ文脈を無視して一言が切り取られ、大罪人であるかのような非難の大合唱はどうか。海外へは問題部分だけが翻訳され、細かい事情など無視して「女性蔑視」と決めつけられる。「不適切な発言に間違いないが、こう切り取られて世界に流れるんだ、怖いなと思った」とは前出の元JOC理事だ。

 森氏を擁護するつもりはないが、報道の世界に身を置きながらも、こんな状況はどうかと思う。一方、森氏は過去にも切り取りで失言とされた例が多い。運営能力の高い人だけに、もう少し発言に配慮してほしかった-と、残念に思っている。(只木信昭)