2020.9.15 12:00

【球界ここだけの話(2086)】打撃の神様に立ち向かったもう一人の神様

【球界ここだけの話(2086)】

打撃の神様に立ち向かったもう一人の神様

特集:
サンスポ記者の球界ここだけの話

 今年は「ボールが止まって見えた」の名言を残した“打撃の神様”こと、故川上哲治・元巨人監督の生誕100年。1日には、巨人-DeNA(東京ドーム)が記念試合として開催された。

 “神様”が、現役を引退したのは58年。もう62年前のことだ。対戦経験のある人がいないかと考えていると、“神様”をもう一人思い出して電話をかけた。

 中日、大毎で通算215勝を挙げ、沢村賞を3度受賞した“フォークボールの神様”こと、杉下茂さん。6年前にサンケイスポーツ紙上で自身の半生を振り返っていただいて以来、年に何度かお話をうかがっている。御年94歳だ。

 杉下さんの口から真っ先に出たのは、「偉大な打者」。道具が粗悪でボールが飛ばない時代に、打率3割を続けたからだという。

 1リーグ最後の年の49年にプロ入りした当時の目標は「川上さんを、ど真ん中のストレートで仕留めること」だったが、さすがに真っすぐだけでは抑えられなかった。そこで、「“神様”をごまかすため」に投げたのがフォーク。こちらも“神様”だけあって、「フォークは川上さんにも打たれたことがない」と言い切る。しかし、投げたのは巨人戦の終盤、1点もやれない場面で、ほとんどが川上さんに対してだったそうだ。

 昨春まで中日の沖縄・北谷キャンプに臨時コーチで参加していた杉下さんは、代名詞を決して誇ることがない。ライバルだった400勝投手の故金田正一さん(国鉄、巨人)より速かったといわれる、速球派としてのプライドがあるからだ。

 「フォークなんてものは、自分でもどこに行くか分からない、どんな変化をするか分からない、へんてこな球なんだ。今はみんな落ちる球を投げようとするけど、投手の基本は真っすぐとカーブだよ」

 川上さんはゴルフ雑誌でコラムを持つほど大のゴルフ好きだったが、杉下さんも負けていない。90歳をすぎても月に2、3度は18ホールを回り、自宅の応接間にはピカピカに磨かれたクラブセットが置かれている。

 しかし、コロナ禍の今、ゴルフは封印中だ。「家の中にばかりいると足腰が痛くてなあ。周りはつえをつけと言うんだが、それだけは嫌なんだ」と語る杉下さんは17日、95歳の誕生日を迎える。(松尾雅博)